The Modern Bond

現代のジェームズ・ボンド

作家、コメンテーター、
元『GQ』ファッションエディターのロバート・ジョンストンが、
007のワードローブ再構成において、サンスペルが
どのような役割を果たしたかを解説します。


『007/カジノ・ロワイヤル』撮影現場でダニエル・クレイグと並ぶジュディ・デンチ。クレイグはリビエラポロシャツを着用

これまでの映画史において、ジェームズ・ボンドほどワードローブが注目された人はいないであろう。1962年以降、ボンドを演じた6人の俳優(オリジナルの『007/カジノ・ロワイヤル』をコミカルに演じたデヴィッド・ニーヴンを含めると7人)は、いずれも世界的なスタイルアイコンとなり、スイムショーツからカクテルカフのシャツまで、多くの世代の男性にファッションスタイルのレベルを上げる自信を与えてきた。

長らく延期された第25作目のボンド映画『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』の公開前から、オンラインのボンド・コミュニティでは、トム・フォードのタキシードからオメガのシーマスター、クロケット&ジョーンズのホールカット・オックスフォードまで、最新の007ルックが話題になっていた。事実、このコミュニティの有力者の一人であり、ボンド・スタイル・ガイド『From Tailors With Love』の共著者であるマット・スパイザー氏は、映画公開の4ヶ月前には、ダニエル・クレイグが映画内で身につけるダブグレーのアルバート・サーストンのサスペンダーをすでに着用していた。

世界で最も有名なスパイが、映画の中にタキシード姿で登場しないという事は起こりえないが、2006年にボンドルックに革命をもたらしたのはダニエル・クレイグだった。1995年の『ゴールデンアイ』以来、ボンドの衣装を担当してきたオスカー受賞の衣装デザイナー、リンディ・ヘミングは、クレイグが『007/カジノ・ロワイヤル』でピアース・ブロスナンの後を引き継いだ際、007の伝統を損なうことなく新たなスタイルを作り出す事を依頼された。その際に選ばれた新しくよりカジュアルで、スポーティかつ無骨なルックを象徴する最も有名なアイテムが、サンスペルのリビエラポロシャツなのだ。


バハマでのシーンでリビエラポロシャツを着用するクレイグ

胸ポケットやソフトカラーなどのディテール

ヘミングはサンスペル社のCEOであるニック・ブルックと友人を通じて知り合い、彼にクレイグのスタイリングの手助けを依頼した。「リンディはダービーシャーにある私たちの工場に来て、すぐにリビエラポロシャツを見つけ、バハマのシーンにぴったりだと思ったのです」とブルックは説明している。「1950年代からリビエラポロシャツを作っていましたが、2006年にはイタリアンリビエラの一握りのブティックでしか売られなくなっていました」。

このシャツは、もともと下着用に開発された独特なコットンメッシュでできているので、ポロシャツによく使われるコットンピケよりも軽い。ヘミングはこのシャツを気に入り、クレイグの体格に合うよう、デザインに微妙な調整を加えたいと考えた。「実際に映画のために、ダニエル・クレイグのサイズに合わせてリビエラポロシャツを仕立てました」とブルックは語っている。

その結果、オリジナルよりも丈が短く、より体にフィットしたものに仕上がった。クレイグの筋肉を強調する為に、袖も短くなった。「リンディがより現代的に仕上げてくれたのです」とブルックは話す。

クレイグの青い瞳を引き立てるために、ヘミングはネイビーを選んだ。「色は時代を反映してしまうから、今までのボンドにはほとんど色を使っていませんでしたが、彼の瞳の色が引き立つようにブルーを多用しました」とヘミングは言う。そして出来上がった作品は、事実上当時はオーダーメイドだったが、今日でもサンスペルのリビエラはヘミングが作ったパターンで生産されている。その時は、二人はこれが然るべく選択であると知る由もなかったが、ブルックは後にイアン・フレミングの姪から、1952年に彼が最初のボンド小説『カジノ・ロワイヤル』を執筆したジャマイカの邸宅、ゴールデンアイに移り住んだとき、サンスペルが作家自身のお気に入りのブランドであったことを聞かされた。

リンディ・ヘミングが『007/カジノ・ロワイヤル』で使用したのは、リビエラポロシャツだけではない。映画を注意深く見ると、マイアミ空港でのシーンや、ヴェスパー・リンドとベニスに向かう船の上で、ボンドがサンスペルのグレーメランジTシャツを着ているのがわかる。また、ベニスの船上シーンでは、黒のショールネックカーディガンの下にサンスペルの白いVネックTシャツを着ている。サンスペルは、『007/カジノ・ロワイヤル』の続編である2008年の『007/慰めの報酬』でもボンドのアンダーウェアを提供している。


リビエラTシャツを着てベネチアで撮影中のクレイグ(日本未入荷)

VネックのリビエラTシャツは映画のラストシーンで着用された(日本未入荷)

現在、リビエラは007ファンを目指す人にとって、ワードローブの必需品となっている。「私はどちらかというとテーラースーツが好きですが、パンデミックの時に自宅で仕事をしていた際には、リビエラポロシャツで過ごしました」とマット・スパイザーは語っている。ボンドファンは審美眼を持った人達なので、これ以上のお墨付きはないであろう。

今回、『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』の公開を記念して、サンスペルは今や象徴的な存在となったリビエラのエクスクルーシブ・バージョンを3種類発表した。スペクトラルグレー、グレーメランジ(日本未入荷)、スカイダイバーブルーの3色は、文字通りダニエル・クレイグにぴったりで、リンディ・ヘミングスの好む青と落ち着いた色調とも調和している。そしてボンド・コミュニティの基準に則るならば、秘密諜報員を目指す人もそうでない人にとっても、ワードローブには欠かせないアイテムとなるであろう。

ロバート・ジョンストンは、Wallpaper、The Daily Telegraph、The Weekのライター、Brummell magazineのコントリビューティング エディターであり、元英国『GQ』ファッションディレクター。